日本マーケティング学会が主催している「日本マーケティング本 大賞2025」にノミネートされていたことがきっかけで読みました。
エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」(アフィリエイトリンクです)という成功した起業家たちの意思決定スタイルについてまとめた本があるのですが、そこで論じられていることを新規事業開発やマーケティングのケースに当てはめて考察している本でした。エフェクチュエーションを読んで興味を持った方におすすめです。
特に共感したのは以下の箇所でした。
逸脱事象との遭遇が有効となるのは、バリュー・イノベーションが顕在化しようとする市場に潜在している機会とは、市場の典型や平均からは遠く離れた風変わりな行動や不条理な状況のなかに潜んでいるからである。
p76
例外事例から実際に事業化したマスキングテープのmt、アラジン・トースター、スタディサプリなどの事例が掲載されています。
マスキングテープのmtでは、マスキングテープの冊子を趣味的に作っている女性3人組から工場見学に来たいと連絡が入ったことをきっかけとして、業務用以外の用途での製品化をすることになりました。そもそも当時マスキングテープは完全に業務用という位置づけだったので、競合である3社はすべて取材を断っていました。自社も実際取材を断ろうとしていたが、製作した冊子を送ってもらったことでその内容に興味を引かれて取材を受け、それから雑貨として個人向けの製品開発をして販売を開始するストーリーが描かれています。
私も変わった使い方をしている顧客を見つけたことがきっかけで、サイトにその変わった使い方をする人たち向けの情報をまとめたページ作り、新規の受注を増やすという経験を何度もしてきているので、例外的な事象から事業化していく部分にとても共感しました。
不確実性の分類
F.ミリケンによる3つの不確実性と、それぞれの不確実性に対して取れる打ち手を事例から整理している箇所も今後事業を立ち上げるときに参考になりました。以下はp146, p172の内容を参考にまとめたものです。
1. 状態の不確実性
行動と結果の関係は不安定で、プロジェクトを進めていく中で、この因果関係の前提となる状態がいつ変化するかもわからない。
企業家は未来の市場の状態がわからない中で、起業や新規事業に向けた行動を進める。
2. 効果の不確実性
選択した行動がどのような効果を発揮するかわからないなかで、行動を選択しなければならない。
企業家は成果を実現するために何が効果的かを十分に理解せずに、起業や新規事業に向けた行動を始める。市場における因果関係は複雑で、行動を始める前にその成功の鍵となる要因をつかむのは困難である。
3. 反応の不確実性
そもそも目的が曖昧であり、プロジェクトを進めていく中で求められる能力が変わってしまう可能性を排除できない。
企業家は将来にわたって何を目的に行動を進めていくか、必要となるリソースは何か曖昧なまま、起業や新規事業に向けて行動を始める。
不確実性の有無は0か1かではなく、濃淡ありつつもすべて存在していますが、自らの事業がどの不確実性の影響を強く受けているのかについて、どう捉えるかで打ち手が変わってくると感じました。
行動ありきで発見、学んだことを活かして不確実性に対処していった実例が豊富に掲載されています。マーケティングのフレームワークや理論が後から結論ありきでまとめられたもののように感じて、実践に違和感を持っている方には刺さる内容の本だと感じました。マーケターだけではなく新規事業開発をしている方にもおすすめです。