「マーケター」という職種は、所属する組織によってまったく異なる仕事になることがあります。本書は、マーケティング関連職の業務内容と関連したスキルセットを網羅的に整理しており、戦略的なキャリア構築の道筋を示してくれる貴重な一冊です。
目次
全体像を把握して目指すキャリアを決める
マーケティングは範囲が広すぎるがゆえに、様々なスキルセットを「何となく」少しずつつまんでいってもどれもやりきれずに中途半端になります。すべての業務に専門家になるのは不可能です。
一方で、どんな業務範囲があり、その業務ではどのようなスキルセットが求められているのかを広く知ることは、何ができて何ができないのかを知ることに繋がりますし、その範囲の専門家に相談する、橋渡しをするといったことができるため、AIに代替されにくい部分です。
本書を読むことで、マーケティング関連業務の全体像を把握し、どの範囲を自らのキャリアにしていくか選択できます。
組織内のキャリアパスを見える化する
マーケティング関連の業務を整理して、ポジションごとの役割を明確にする視点は、組織運営の観点からも極めて有効です。自社内のキャリアの選択肢と、身につけるべき知識や能力をスキルマップをあわえて見える化すれば、メンバーのキャリア構築を支援し、結果として定着率向上にもつながる可能性があります。
以下は本書に記載のあったマーケターの職種の種類です。それぞれがどのような仕事か、様々なスキルセットのうちどれをどのくらいのレベルで習得しているかが求められるのかも丁寧に整理されています。
また、世の中の変化に伴い「将来このポジションが増えるかもしれない」と認識して準備しておくことが必要なので、その点でも役に立つ本でした。本書で紹介される各機能や役割を社内の関連メンバーが知っておくことで、必要時に既存職種から専門職として切り出す、ポジションを新設するといったことがしやすくなるでしょう。職種とスキルセットの全体像を知り、マーケティングで成功している他社が実際にどう役割分担をしているのかを知ることは良いベンチマークになります。知らなければそもそもポジションの新設や教育によるスキル開発に思い至らないためです。
OS(基盤能力)とApp(専門スキル)の秀逸なフレームワーク
本書の核心は、マーケターのスキルを「OS」と「App」に分類したフレームワークにあります。
OS(進める力)は、全ての活動の土台となる基盤能力で、考える力、実行する力、人を動かす力といった汎用性と持続性の高いスキルを指します。

App(加速させる力)は、特定の目的や機能を果たすための専門的なスキルです。以下に分類された70項目が含まれています。
- 戦略
- 商品
- ユーザー接点
- テクノロジー
- パフォーマンス管理

このフレームワークは、AI時代における「残る仕事」を考える際の参考になります。専門的なAppの要素は変化しやすい一方で、基盤となるOSは長期的に価値を持ち続けます。両者のバランスを意識したキャリア設計、自己学習をするのがよさそうです。
経営者・人事担当者にも価値がある
本書は前述のとおり、個人のキャリアを考えるだけではなく、組織の人材戦略にも活用できる実践的な内容です。マーケティング人材の採用において「何を求めるべきか」が明確になることで、採用基準の精度向上や適切な人材配置が可能になります。
また、既存メンバーのスキル棚卸しや育成プランの策定にも直接活用できる内容です。App(専門スキル)による短期的な成果を求めがちな現場において、長期的な成長ポテンシャルを見極める指標としてOS(基盤能力)を活用することで、より戦略的な人材投資が実現できると感じました。
チーム内の認識すり合わせに使える
本書はマーケター個人のキャリアプランに役立つのはもちろん、組織運営、採用・人材育成まで幅広く活用できます。マーケティング職に携わる全ての人、そしてマーケティング組織を運営する経営者、マネージャーにおすすめです。
AIの激しい進化で、マーケター業務のどの部分を人間が続けることになるのかは誰にもわからない世の中になりつつあります。現状を広く知って、自分のキャリア、社内で保有するマーケティング機能領域と外部委託する領域の切り分け、採用や教育の方法など、将来について考える貴重な材料になる本でした。
サイトエンジンでは社内のマーケターのキャリア構築、スキルアップを目的とした研修やスキルマップの作成の取り組みをしているので、本書の内容を自社の研修体系の改善に活かしていきます。