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コトラーの起業家的マーケティング : 視野を広げる一冊 マーケ本レビュー

2025年5月14日

私は起業していてかつマーケティングを主な仕事としているので、タイトルに目を引かれて読みました。

考える材料を大量に浴びせかけられるような本

「考える材料として引き出しを増やす」という点で価値がある本でした。マーケティングに関連する相反する要素のバランスをどう取るかについて、さまざまな角度から検討材料を提供してくれます。

それぞれの項目をしっかりと考えながら読むことで、やるべきことが思い浮かぶような本でした。教科書のような内容なので、全体を読み終えてから再度一部を読み直すことで理解できた箇所もありました。

マーケティングとリーダーシップの新たな関係性

本書で特に印象に残ったのは、マーケティングにおけるリーダーシップの重要性です。p197には次のような記述があります。

「強いリーダーシップがなければ、マーケティングは手順に従って標準的に行われるにとどまり、デジタル技術がもたらす急変に対処できないだろう。もはや我々は、「専門的」スキルだけをベースにマーケティングを実施することはできなくなっている。マーケティング担当幹部によって実現されるビジネスインパクトの55%以上がリーダーシップ要因によるもので、約15%が専門的なマーケティング・スキルによるものである。」

マーケティングの成功が専門スキルよりもリーダーシップ要因に大きく依存しているという事実は、実務経験からなんとなくわかっているものの、従来のマーケティングの書籍でここを重点的に説明している本は、私が知っている範囲だと森岡毅さんによる数冊の本くらいしかありませんでした。

この本では、リーダーシップで価値観を全社に浸透させ、差別化、ブランド、ポジショニングを絶え間なく改善し続けることの重要性をコトラーは強調しています。

起業家精神とプロフェッショナリズムの融合を示すオムニハウスモデルというフレームワーク

本書は、オムニハウスモデルという包括的なフレームワークを軸にまとめられています。このモデルは、組織が持つべき能力を二つの大きなグループに分けています。

P.19の図1-1 オムニハウス・モデルの図から筆者作成

起業家精神グループ(CI-EL):

  • C(Creativity):創造性
  • I(Innovation):イノベーション
  • E(Entrepreneurship):起業家精神
  • L(Leadership):リーダーシップ

プロフェッショナリズム・グループ(PI-PM):

  • P(Productivity):生産性
  • I(Improvement):改善
  • P(Professionalism):専門性
  • M(Management):マネジメント

そして、これら二つのグループの間にはオペレーションが位置しています。周辺には人間、財務、マーケティング、テクノロジーの4要素と、外部要因としてダイナミクス(5D/4C)、競争力(PDB/9E)、過去・現在・未来が記載されています。

5Dとはテクノロジー、政治・法律、経済、社会・文化、市場のこと、4Cは変化、競合他社、顧客、自社です。

PDBは、ポジショニング、差別化、ブランドをあらわしていて、9Eはポジショニング、セグメンテーション、ターゲティング、差別化、販売、マーケテイングミックス、ブランド、サービス、プロセスのことです。

このフレームワークが示唆しているのは、マーケティングの成功には、創造的で革新的な起業家精神と、それを効率的に実現するための専門的なプロフェッショナリズムの両方が不可欠だということです。世の中の変化が激しくなりすぎて、PI-PMの部分(プロフェッショナル・マーケティング)である従来型のマーケティングでは対応しきれなくなっているので、CI-ELの部分(起業家的マーケティング)で補っていく必要があるという説明がされています。

財務や能力開発など幅広い要素とマーケティングの関連性に触れている

他のマーケティング書籍と本書を比較した際の最大の違いは、起業家精神、専門性、オペレーション、財務、能力開発などを包括して取り扱っている点です。これまでのマーケティング本はこのうち専門性に偏っているものが多く、一部はオペレーションに触れる程度でした。本書は財務とマーケティングの関連性について多めに触れている、個人と企業の両方について能力構築をまとめてあるので、広い視野でマーケティングを捉えているように感じました。

PDCAサイクルの回し方を変える点が実践につながりそう

本書を読んで、私自身のマーケティングアプローチ、特に組織としての能力を積んでいくためのPDCAの回し方が変わりそうだと感じています。従来の「専門的」なマーケティングスキルや、チャネルに関するテクニックやベストプラクティスに頼るアプローチから、リーダーシップによる実験を重視したアプローチへの転換です。

従来もすでに効果が見えているアプローチから離れて、実験的なチャネル拡張のための予算を作ることはあったのですが、社内の個々人の判断に委ねられていました。実験に取り組む理由や考え方を言語化して、組織全体に浸透させていくことで、再現性を持って実験が増えるようにしていきたいです。

こんな方におすすめします

本書をお勧めしたいのは、マーケティングに関与している経営層およびマーケティング組織全体の方針を決める方です。PL(損益計算書)だけではなくBS(貸借対照表)も見て戦略を考えているような方ほど大きな価値があると感じました。

逆にすぐに成果が出る具体的な施策を知りたいと考えている人には向いていません。本書は即効性のある戦術ではなく、長期的な視点での思考の枠組みを提供するものだからです。コトラーの他の著作「マーケティング4.0」「マーケティング5.0」などと比較すると、本書はより抽象的で経営向けの内容でした。

マーケティングの視野を広げる効果がある一冊です。マーケティングについて議論する同僚と一緒に読んで、議論の前提となる考え方を揃えるのに使うのに向いていると思いました。

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毛塚 智彦

この記事を書いた人

毛塚 智彦

2006年からデジタルマーケティングを開始し、2008年にサイトエンジンを創業しました。 SEO、コンテンツマーケティングが得意です。立ち上げた直後のメディアから、数千万PVあるようなポータルサイト・ECサイトまで、幅広く関与してきました。 業務ではマニュアル作成などの仕組みづくり、事業立ち上げ、採用などを担当しています。 Twitter

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