「顧客が増え続ける」科学 デジタル時代のマーケティング新定跡を読みました。著者の西井さんの書籍をすべて拝読しているので今回も手に取りました。
売った後の顧客との関係性をどう構築していくかに重点をあて解説している本でとても参考になりました。以下個人的に特に参考になった箇所を紹介します。
あるプロセスの前後の顧客にヒアリング
第5章では、カスタマーライフサイクル全体を通じた施策設計の具体例が紹介されています。
特に印象的だったのは「ライフサイクルの前後にいる顧客の差分をヒアリングし、状態の移行要因を探る」という考え方です。
カスタマーライフサイクルにおける顧客属性(潜在顧客、認知顧客、お試し顧客、本購入顧客、習慣化顧客)を分類し、課題ごとの顧客を10人集めます。たとえば、認知しているが、お試し購入に至らないことが課題であれば、お試し顧客と非お試し顧客を抽出して話を聞きます。
ここでいうお試し顧客はF0,F1で、本購入顧客はF2、習慣化顧客はそれ以降です。
(p98の内容を要約しました)
属性がまたがる部分の両者へのヒアリングを通じて顧客属性ごとの差分をあきらかにして、それを施策に落とす活動はすぐ実行できるし、効果も高そうでさっそく試したいと感じました。いままで「既存顧客だけ」、「潜在顧客だけ」といったように、1つの属性だけにヒアリングを繰り返すことはやってきましたが、ライフサイクルが切り替わる前後の両方の顧客からまとめて聞くのは未経験でした。
また、新規獲得年と各年の実績を見る段階図(p58)を顧客属性のパイプラインを盛り込みつつ可視化できるようにすると、予測しやすくなるし、打ち手も自然と湧いてくるのではないかと感じました。
買われ方の設計やプライシング
本書では、F0〜習慣化顧客までのステージごとにプライシング設計や売り方(単発購入・定期購入など)をどう考えるかという示唆も多く含まれていました。
CPA(獲得単価)、CPO(受注単価)、LTV(顧客生涯価値)がどう変化するかを想定しながら設計するという視点は、事業全体の設計にも関わる深いテーマです。
特にF0とF1の体験は、見直すことで事業の業績が大幅に変わる部分なので、Webサイトのオファーや見せ方を変えるといったレベルを超えた根本的な部分から変えることを意識していくべきだと理解しました。
習慣化の障壁を取り除くエフォートレス
習慣化された顧客体験をつくる上で重要なのが、「エフォートレス(顧客の労力が発生しないようにする)」という考え方です。
驚かせるよりも、“つまずかせない”。この視点の重要性が語られていました。
著者はエフォートレスの3要素として、シンプル、初期実感、不安の払拭を挙げています。
なかでも「シンプル」と「初期実感」は、広告やプロダクト自体を変えずに伝え方や導線の工夫ですぐに改善できるため、マーケターにとって実践しやすいポイントだと感じました。
もっとも顧客にしてほしい行動をシンプルに絞って伝えることで、どう使えばよいかがわかりやすくなり、習慣化につながります。初期実感はできるだけ早く小さな成功体験をしてもらうために、顧客の期待値を調整したり、成果を時間してもらうきっかけを作ったりすることで達成できます。
まとめ
本書は、アップセルやクロスセルを通じた「売上拡大」ではなく、購入後の顧客との関係をどう育てるかに主眼が置かれています。今後マーケティングに関与するときには、新規顧客獲得と既存顧客の維持で、後者に投資を寄せるべき状況かを今まで以上にシビアに判断するようにしていきたいです。
特に、リピート率や習慣化に課題を感じているマーケターの方には、多くのヒントが得られる内容だと感じました。
私自身も、支援側と自社マーケターという両方の立場から、多くの気づきを得ることができました。
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