生成AIはビジネスの世界に急速に浸透しており、特にマーケティング分野ではその活用が注目されています。世界のマーケターはどのように生成AIを活用し、日本のマーケターの活用状況はどのような傾向にあるのでしょうか。Salesforce、HubSpot、Adobe、CoScheduleといった複数の調査結果から、その実態と日米を含むグローバルでの違いを見ていきます。
目次
世界のマーケターの生成AI活用状況と一般的な用途
高い導入率と今後の展望
Salesforceの調査によると、世界のマーケターの半数以上(51%)が既に生成AIを業務で使用または実験的に使用しており、さらに22%が「近いうちに使う予定」と回答しています。この傾向が続けば、調査対象のマーケターの約4分の3が生成AIを使用することになる計算です。
CoScheduleの調査においても、アメリカのマーケターの85%がコンテンツ作成にAIツールを使用していると報告されており、AI統合に消極的な企業はわずか3.98%に過ぎません。これは、ほぼ全てのアメリカ企業がAI導入に前向きな姿勢であることを示しています。
出典:Salesforce, 2025、CoSchedule, 2025
具体的な活用分野
生成AIユーザーは、多岐にわたる業務にAIを活用しています。Salesforceの調査における世界のマーケターの主な用途は以下の通りです:
- 基本的なコンテンツ作成(76%)
- コピーライティング(76%)
- 創造的な発想を刺激(71%)
- 市場データの分析(63%)
- 画像アセットの生成(62%)

CoScheduleの調査でも、コンテンツ作成(AIライティングツールやコンテンツ作成ツール)が85%と最も一般的であり、AIはコンテンツ制作のほぼ全ての段階(リサーチ、コンテンツ作成、編集)をサポートできることが示されています。
出典:Salesforce, 2025、CoSchedule, 2025
AI活用による効果
AI活用による主な効果として、CoScheduleの調査では以下が報告されています:
- 生産性向上(83%が報告)
- 週に平均5時間以上の時間節約
- 高品質なコンテンツの提供スピード向上(マーケターの84%が実感)
調査参加者の一人は、「AIは私たちのやっていることを置き換えるのではなく、私たちの能力を拡張し、時間を短縮し、アウトプットの質に焦点を当てることを可能にします」と述べています。
また、マーケターの約75%がAIによって競争上の優位性を得ていると感じており、トップ3のメリットとして効率向上(79%)、コンテンツ出力の拡大(55%)、コスト削減(43%)を挙げています。

懸念点と課題
一方で、生成AI活用における懸念点も存在します。Salesforceの調査では、マーケターの主な懸念は精度と品質(31%)、次いで信頼(20%)、スキル(19%)、雇用の安全性(18%)でした。
CoScheduleの調査では、データプライバシーの懸念(40%)、技術的経験の不足(38%)、導入コスト(33%)が大きな障壁となっています。多くのマーケターは、生成AIを安全に活用する方法や最大限の価値を引き出す方法を十分に理解しておらず、雇用主からのトレーニングが不足していると報告されています。
日本のマーケターの生成AI活用状況と具体的な用途
急速な普及の兆し
HubSpotとAdobeの調査によると、日本のマーケターの54%が生成AIを活用しています(日常的29%、実験的25%)。HubSpotが2023年8月に行った別の調査では「まったく利用したことがない」が78.3%だったのに対し、今回の調査(2024年11月実施)では「まったく利用していない」人が28.9%にまで減少しており、この1年3ヶ月で利用が大きく進んだことが分かります。
ただし、日本のマーケターの活用率(54%)は、他国平均の約75%と比較すると低い水準に留まっています。参考として、インドでは92%、オーストラリアでは79%のマーケターが活用しています。
具体的な活用業務
日本のマーケターが生成AIを業務で活用している上位3つの業務は、HubSpotとAdobeの調査で一致しており、以下の通りです:
- 会議の文字起こしや議事録作成(39%)
- データ分析や消費者のインサイト分析(37%)
- マーケティングコンテンツの文言作成(35%)

今後の期待分野
日本のマーケターが「効率化したい業務」として生成AIに特に期待を寄せている分野は以下の通りです:
- データ分析(44.4%が効率化したい業務とし、53.5%が積極利用意向あり)
- プレゼンテーション資料作成(36.8%が効率化したい業務とし、51.2%が積極利用意向あり)
- レポート作成(36.4%が効率化したい業務とし、52.3%が積極利用意向あり)
業務でよく使用されているツールとしては、HubSpotの調査によると「ChatGPT」(73.9%)が最も多く、次いで「Copilot」(28.4%)、「Gemini」(15.4%)となっています。
日本特有の懸念点
日本のマーケターには、グローバル共通の懸念に加えて、より実践的・心理的なハードルが見られます。HubSpotの調査によると、生成AI活用をためらう主な理由は以下の通りです:
・「具体的な事例や実績を見ないと効果を信じられないから」(24.5%):単に精度への不安ではなく、実証された具体的な実績を重視する慎重な姿勢が特徴的です。
・「生成AIに対する知識がないから」(23.8%)
・「新しいツールを使いこなせる自信がないから」(22.1%):知識不足に加え、「自信のなさ」が心理的なハードルとなっています。これは日本のマーケターの79%が「日本は先進的なテクノロジー導入の波に遅れがち」と考える自己認識とも関連している可能性があります。
この慎重な姿勢は活用率にも現れており、日本(54%)は他国(インド92%、オーストラリア79%)と比較して低く、特にビジュアルコンテンツ生成の活用率(27%)は他国(41%~61%)を大幅に下回っています。
日米グローバルの活用法の違い
調査結果を比較すると、日本と他国のマーケターの間で、生成AIの活用傾向に明確な違いが見られます。
活用領域の違い:社内業務 vs. 顧客向けコンテンツ
最も顕著な違いは活用領域にあります。日本では、会議の文字起こしや議事録作成など、社内業務の効率化に生成AIを活用する割合が相対的に高い傾向が見られます。
一方、他国では、マーケティングコピーのアイデア生成、マーケティングコンテンツの画像生成、ソーシャルメディア用コンテンツ作成など、顧客向けのコンテンツ制作への活用が多いことが示されています。
ビジュアルコンテンツ活用の格差
ビジュアルアイデアや画像の生成に生成AIを活用している日本企業は27%に留まり、インドの61%やオーストラリアの45%と比較して大幅に低い割合となっています。これは、海外ではクリエイティブ制作における生成AIの活用が進んでいるのに対し、日本ではまだ発展段階であることを示唆しています。
出典:Adobe, 2024
今後の展望
生成AIの具体的な活用方法は、各企業の状況や目的に応じて様々ですが、世界的なトレンドとしては、コンテンツ作成、データ分析、そして顧客体験のパーソナライゼーションといった領域での活用が中心となっています。
日本のマーケターも、まずは社内業務での活用から始めつつ、今後は顧客向けコンテンツ制作や高度なデータ活用へと、その範囲を広げていくことが期待されます。