表紙に「マクドナルド、コルゲート、スニッカーズなどの著名ブランドを手掛けたP&G、J&J、ベイン出身の著者」と書かれていて、そのマーケティング手法に興味を持って手に取った一冊です。自社ブランドの強化の参考にしたいと思って読みましたが想像していた以上に面白かったです。
目次
「1メッセージ1訴求」など常識だと思っていたことが覆される
広告クリエイティブを作るときは「1つの訴求ポイントかつ1メッセージが王道」だと完全に思い込んでいました。ところが本書では、その真逆の話が展開されます。
「レレバンスはブランドが人々の心のなかで日常的に存在する複数のタッチポイントにつながったときにのみ生じる。複数のタッチポイントは、メッセージを積み重ねることでしか実現できない。」(p182)
著者は「ひとつに絞り込むべきというのは甘い」と断言し、プラスの連想を複数同時に伝えられるようなクリエイティブの重要性を説いています。この部分を読んで、自分の考えが間違っていたことを痛感しました。
セグメンテーションなど定石が否定されている
驚かされたのはメッセージの話だけではありません。現代マーケティングの基本とも言えるセグメンテーションについても、著者は大胆な主張をします。
「結局のところ、顧客層で重要なのは2種類しかいない。コア顧客と新規ターゲット層、つまりいま買ってくれている人たちと、(少なくともまだ)買ってくれていない人たちである。(中略)マーケティングで、異なる特徴のある層に対して異なる手段を用いる、というのは意味がない。(中略)はっきりと口にしないレベルでは、人々は私たちが思っているよりもはるかに似通っている。最も強力なアイデアは普遍的なのだ。」(p244)
この部分以外にも、定番の考え方と逆のことを言い切っていて本当かな?と感じる点と、たしかにそうかもしれないと思う点が両方ありました。
実務で試したくなるプラスの連想を増やす活動
理論だけでなく、具体的な手法も紹介されています。特に「プラスの連想を増やす」という考え方は実務で応用してみたくなりました。たとえば、すでに顧客に認知されているより大きな要素と自社製品を関連づけて伝えるといった手法が紹介されていました。ミネラルウォーターのパッケージに山の画像を使うような身近な例で説明されているので、とてもわかりやすく理解できます。
また、プラス面だけでなく、マイナスの連想への対処法についても触れられているのが珍しいと感じました。
「長く続いているブランドは、根っこの部分をしっかりもちつづけながらも、新しいプラスの連想を加えてマイナスの連想を圧倒し、変わり続ける社会や文化に対応しつづけている。」(p281)
ブランドを長期的に育てていく上で必要なことを、維持する、止める、加えるとシンプルに整理しています。「維持する」はプラスの連想を強化すること、「止める」はマイナスの連想を一掃すること、「加える」は新しいプラスの要素を足すことを指しています。
あえてデータを省いて書いている?
事例が豊富に含まれていることもあり、内容は非常に理解しやすく、全体的に読みやすい構成でした。ただし、プラスの連想が増えたことで顧客の行動がどう変わるのかを示すデータがもう少しあればよかったと感じます。著者がコンサルティングで実際に使っているノウハウなので、説得材料となるデータは持っているはずですが、わかりやすさを優先して省いているのではないかと思いました。
また「マーケティングファネルを捨てよ」という部分など、一部BtoC向けにしか当てはまらないのではないかと思うような箇所がありました。リードからナーチャリングして商談、契約という流れの会社には相性が悪いかもしれません。
こんな人におすすめ
ブランドの広告クリエイティブを考えたり、コンテンツマーケティングや広報で日々情報発信したりしている人には特におすすめです。同僚におすすめするとしたら「これまでのマーケティングの一般論から離れられるから選択肢が広がる」と伝えたいと思います。
逆に、マーケティング予算がほぼなくて打ち手を増やしようがない場合には向いていないかもしれません。
まとめ
ブランドを育てていく上で欠かせない「顧客にどう認識されるか」を様々な角度から解説している良書でした。古くからマーケティングの教科書に掲載されている定石を否定している箇所は、異なる考え方をインストールしてもらえているようで、読めてよかったです。