近年、AI(人工知能)やVR(仮想現実)などのテクノロジーが教育・研修分野で活用され、学習のあり方に変化を与えています。これらの技術は、個人に合わせた学習体験の提供、実践的なスキル習得、知的財産保護、倫理的なAI利用の確保といった多様なニーズに応えるソリューションとして注目されています。
このような背景の中、TIME誌とStatista社が共同で発表した「World’s Top EdTech Companies 2025」は、世界のEdTech(エドテック)の動向を知る上で参考になります。この記事では、その中から5つの企業をピックアップし、各社の特徴や提供するソリューションについて解説します。
Codemao(中国)
Codemaoは、2015年に設立された中国のオンラインプログラミング教育のパイオニアです。「TIME誌とStatistaが共同で発表した『World’s Top EdTech Companies 2025』」では、トップにランク付けされています。同社は、プログラミングを通じて子どもたちに創造の楽しさを提供することを目指し、中国のAI教育重視という背景のもとで事業を拡大しています。
事業の中心は、青少年向けに自社開発したプログラミングソフトウェアと関連する教育サービスです。グラフィカルプログラミングツールの「Kitten N」をはじめ、PythonやC++のソフトウェア、オンラインコース、オフラインでの学習イベントなどを提供しています。また、学校向けにAIプログラミング教育ソリューションを展開し、地域ごとのカスタマイズにも対応しています。
累計ユーザー数は3,800万人を超え、ユネスコとの提携や、教育格差の是正などを目的とした社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる点が特徴です。共同創業者であるLi Tianchi氏は、「すべての生徒は可能性を秘めており、成功する機会が必要なだけだ」と述べています。
Codemaoは中国の携帯電話番号がないと登録・利用できないため、「Kitten N」を試してみました。このSaaSは、ビジュアルプログラミングの手法を採用しており、ブロックを組み合わせることで子どもたちが直感的にプログラミングの論理を学べるよう設計されています。

作成したプログラムの動作をリアルタイムで確認できる点が印象的でした。また、AI機能も一部搭載されているようですが、こちらの利用には中国国内の携帯電話番号での認証が必要となっています。
出典:Codemao
Ten Thousand Coffees(カナダ)
Ten Thousand Coffees(以下、10KC)は、従業員のエンゲージメントや定着、キャリア形成を目的としたメンターシッププログラムを構築するための法人向けソフトウェアを提供しています。同社のソフトウェアは、比較的少ない運用負荷でメンタリングプログラムを導入・管理できるように設計されています。
導入企業からは、10KCのプラットフォームが提供するデータやカスタマイズ性が評価されています。例えば、Horizon Media社の担当者は10KCの技術と能力について言及しており、Spring Health社の担当者は、こうしたプログラムが離職率の低下や従業員体験の向上に繋がる可能性について述べています。ナイキ社では、同社の仕組みを活用し、小規模な取り組みから、参加者のキャリア開発機会を創出するプログラムへと発展させた事例があります。
Workera(アメリカ)
Workeraは、企業がAI時代に対応できる人材を育成することを目的としたスキルインテリジェンスプラットフォームです。企業のスキルギャップを特定し、その解消を支援します。AIを活用してスキルを評価し、組織や個人の目標に合わせた学習計画を提案する仕組みが特徴です。
AI、データ、サイバーセキュリティなど、様々な分野における10,000以上のスキルライブラリを保有し、従業員のスキル開発を支援します。採用から退職まで、従業員育成の各段階でAIによるスキル評価を取り入れ、企業の目標達成をサポートしています。 同社は「2025年の世界のトップEdTech企業」の一つに選出されたほか、「2024年の最も革新的な企業」にも選ばれています。Accenture社などの企業に導入されており、AIアシスタント「Sage」が個別のインサイトや人材分析、戦略的な推奨事項を提供することで、チームの生産性向上や継続的な学習を促します。また、トップテック企業を基準とした目標設定を可能にする機能も備わっています。
個人ユーザーは無料でアカウント登録することができ、AI分野に関する多くのスキル評価を利用できます。

最大で4つの分野を選んで自己評価を行い、自身のスキルがその分野でどのような位置にあるのかを把握することが可能です。選択式問題に加え、記述式の設問も多数含まれており、約20問に回答すると、その分野におけるスキルレベルがすぐに算出されます。

各分野の「My Skill」をクリックすると、自分の強みや弱み(ギャップ)がひと目でわかるようになっています。有料の法人向けプランでは、このギャップをもとに、ユーザーごとに最適化された学習プランが自動で生成され、効率よくスキルの底上げを図ることができます。

出典:Workera
InStride(アメリカ)
InStrideは、企業が従業員向けに学費のかからない教育プログラムを提供することを支援しています。これにより、企業は人材の確保や定着、スキルアップを図ることができます。この事業は、2014年にスターバックス社とアリゾナ州立大学が立ち上げた提携プログラムを基盤として2019年に設立されました。企業のニーズに合わせて2,500以上の教育プログラムを調整し、企業と大学を繋ぐ役割を担っています。
パートナーであるアリゾナ州立大学は、U.S. News & World Report 2025で「国内で最も革新的な大学」に選ばれています。InStrideは75以上の組織と提携し、約100万人の従業員を対象にサービスを提供しています。Intermountain Health社の最高人材責任者であるヘザー・ブレイス氏は、InStrideとのパートナーシップにおける柔軟性や創造性について述べています。
出典:InStride
Copyleaks(アメリカ)
Copyleaksは、AIとデジタルコンテンツの信頼性、知的財産の保護、AI利用のガバナンスに関連するソリューションを提供する企業です。教育分野のほか、企業におけるコンテンツの信頼性確保や倫理的なAI利用を支援します。提供するAI検出器は、コンテンツが人間によって書かれたものかAIによって生成されたものかを検証するもので、対応言語は30以上、AI検出精度は99%以上としています。
また、盗用や言い換えられたコンテンツ、類似テキストを検出するチェッカーも提供しており、100以上の言語に対応しています。このツールは、60兆以上のウェブサイトや16,000以上のオープンアクセスジャーナルを含むデータベースを検索します。著作権の遵守、AIモデルのトレーニングデータの保証、LLMによる無断使用からのIP保護など、幅広いソリューションを展開しています。 Fortune 500選出企業や大学などで利用されており、Moodleなどの学習管理システム(LMS)と連携することで、教育機関における学術的誠実性の確保や安全なAI利用をサポートします。
Copyleaksの無料トライアルアカウントでは、毎月25クレジット(1クレジットあたり約250ワード相当)を利用することができ、無料で体験してみました。

コピペチェックやAI生成コンテンツの判定ができるツールは他にもありますが、両方を同時に確認できる点や、さまざまなアップロード方法に対応している点は、非常に印象的でした。

出典:Copyleaks
まとめ
今回紹介した5社は、AIなどの技術を活用し、学習者の成長や企業のスキル開発などを支援するソリューションを提供しています。学習の個別化、実践的なスキル習得、教育格差の是正、デジタルコンテンツの信頼性確保といった、現代の教育とビジネスにおける課題に対し、それぞれのアプローチで取り組んでいます。
日本においても、個別最適化学習、リスキリング、盗用対策、企業内研修の効率化などは重要なテーマです。これらの海外EdTech企業の事例は、自社の教育事業や学習環境を検討する上で、参考になる点があるでしょう。今後も海外のEdTechの動向に注目し、新たな学びの形を現場でどう活かせるかを考えていくことが求められます。