Webサイトの改善施策を検討する際、細かい箇所まで含めると数十個の改善案を簡単に洗い出すことができます。1つの改善をやりきらないまま、次々と新しい施策に手を出してしまうことは多いのではないでしょうか。
しかし、少ない箇所を何度も繰り返し改善したほうが、費用対効果は高くなります。重点箇所への集中投資が効果的な理由は以下の通りです。
目次
多くのサイトで成果は偏っている
多くのサイトで、上位のページを経由する売上が大部分を占めています。20:80の法則とよく言われますが、上位20%のページが全体の売上の80%を生み出しているようなサイトは多いです。BtoBのリード獲得を目的としたサイトなどでは、さらに極端に偏っていることも少なくないです。
また、規模の大きな箇所も流入の少ない箇所も、改善にかかる時間は同程度です。流入規模が大きい箇所に変更を加えることで、成果への影響が大きくなります。
同じ時間をかけるなら、月間1,000PVのページよりも月間10,000PVのページを改善したほうが、得られる効果は圧倒的に大きくなります。少数のインパクトの高い範囲に集中して改善に取り組むことで、限られたリソースから最大の成果を引き出せます。
作業効率の向上
同じ箇所を繰り返し改善することで、実装や集計がテンプレート化されていき、工数が削減されていきます。初回はKPIの設定、設計から実装、計測後のレポーティングフォーマット作成などで時間がかかりますが、2回目以降は過去のテンプレートやフォーマットを活用して効率的に進められます。この学習効果により、コストを下げて繰り返し実験することが可能になります。
少ない指標に執着できる
改善箇所が増えるほど計測指標も増え、KPIの関連付けが複雑になります。いくつもの指標を同時に改善しようとして手を広げていくと、重要な改善箇所に集中できなくなります。関係者全員が1. 目標予算と、2. 今の数値、3. 現状と同じペースで進んだときの着地予想を何も見ずに言えるくらいの状態を作ったほうが成果が出やすいでしょう。
また、複数箇所を同時に修正すると相互に作用しあってしまい、施策の成否がわかりにくくなってしまうことがあります。重点箇所に絞ることで測定すべき指標を限定でき、改善効果の把握も容易になります。
重点箇所への集中を阻むよくある3つの心理的要因
ページ数の多いサイトであれば、やりきれないくらいのWebサイトの改善案を簡単に洗い出すことができます。特にAIにキャプチャ画像やアクセス解析などのデータを渡して意見してもらえるようになった現在では、際限なく改善施策を細かく出していけます。
理論的には重点箇所への集中が効果的だと分かっていても、実際には次々と新しい施策に手を出してしまう企業が多いのが現実です。
数字が頭打ちになっていると思い込んでしまう
同じ箇所を何度か改善すると、効果が小さくなったり、思うような結果が出なくなったりすることがあります。この時点で「もうこのページは改善し尽くした」「ここは限界だ」と判断してしまいがちです。しかし実際には、アプローチを変えたり、より細かい要素に着目したりすることで、まだまだ改善余地があることが多いのです。
変更方法が思い浮かばなくなる
同じページを継続的に改善していると、新しいアイデアが枯渇したように感じることがあります。「もう試せることがない」という状況に陥ると、自然と他のページや新しい機能の改善に目が向いてしまいます。しかし、ユーザーインタビュー、ヒートマップの詳細分析、ヒューリスティック分析、競合サイト分析など、新たな視点を取り入れることで改善アイデアは継続的に生み出せます。
やっている感を対外的に見せにくい、飽きる
同じ箇所ばかり改善していると、周囲に「進歩がない」「マンネリ化している」と思われてしまうリスクがあります。今までと違う取り組みをしなくてはいけないというプレッシャーが発生している、部門のトップが変わったことで今までの施策と方向性が大きく変わったみたいな話を見聞きした経験のある人もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、同じ作業の繰り返しにすぐに飽きを感じ、新しい箇所を変更したくなるタイプ(筆者もそうです)の方もいるでしょう。しかし、地味でも継続的な改善こそが最も大きな成果につながることを、組織全体で理解する必要があります。
少しでも改善されたらきちんと評価・称賛して、仕組み化します。小さな成功を正しく振り返って継続できる文化を作っていくことが大切です。
重要度と工数で優先順位を決める
改善案が多数ある場合、重要度(期待される効果)と工数の2つの基準で整理しましょう。この際、重要度が低い箇所は思い切って捨てることが重要です。工数はマーケティングのメンバーだけで実施できる施策と、エンジニアやデザイナーに手伝ってもらう施策で分けて考えるようにします。
手っ取り早く効果を上げやすい項目
過去の経験から、効果を期待しやすい箇所の例をいくつか挙げます。
1. フォーム
フォームはちょっとした変更でも、大きく改善される可能性があり、投資対効果の高い項目です。
見るべき指標としては、以下のようなものがあります。
- フォーム到達率(フォームページPV ÷ 全体PV)
- フォーム開始率(入力開始ユーザー ÷ フォーム到達ユーザー)
- フォーム完了率(完了ユーザー ÷ 入力開始ユーザー)
入力する項目数が多い場合には、複数ページに分けて入力してもらうことがあるため、どのページで離脱する人が多いかなどを別途計測することもあります。
具体的な方法として、項目数を最小限に絞る、フォームを分割して各ページで少しずつ表示するようにする、簡単に入力できる・入力に抵抗感がない項目を先に表示する、グローバルナビやフッターなどの余計なリンクは消すといった施策は、大抵の場合で成果が出るのでおすすめです。ちょっとした改善のように見えることでも売上が10%以上増えることもあります。
プレースホルダーテキストを記入欄の外に出す・簡単に入力できる印象の例示に書き換える、郵便番号から住所自動入力やリアルタイムバリデーションなどの入力支援機能、複数ステップの場合の進捗バー表示、分かりやすいエラーメッセージとインライン表示によるエラーハンドリング、入力完了後の流れの説明などが重要です。
2. 流入の最も多いテンプレート
ECサイトであれば検索結果のページや商品詳細のページ、BtoBであれば各サービスのページなど、同じテンプレートを使っているページが多い場合、テンプレートの改善でてっとり早く成果を出すことができます。
改善ポイントとして、タイトルやディスクリプションのルールの変更、ファーストビューで見せる要素の変更、情報を並べる順番の変更、CTAボタンの配置・デザイン・文言の最適化、内部リンク構造の改善による関連ページへの誘導強化、モバイルユーザビリティの向上、ページ読み込み速度の最適化(Core Web Vitalsスコア改善)などがあります。1つ1つ書き換えているといくら時間があっても足りないので、すでにデータベースに入っている情報を適切な順番とボリュームで提示し、ユーザーにとって利便性の高いページにすることを考えます。たとえばまったく同じ情報が含まれていたとしても、並べる順番を変えるだけで、ファーストビューで離脱されてしまう率、読了率、成約率などは変わってきます。同じようにデザインや見せ方によっても数値は変わります。
サイトの規模によっては、同じテンプレートを使っているページの中でも一部だけを新しいものに差し替えて、実験の結果数値が改善されていることがわかったら全体に適用する流れもあります。
3. 高流入ページのファーストビュー
特にコンバージョンがたくさん発生している個別のページのファーストビューを変更して、数値を改善します。
ユーザーはページ読み込み後、短時間で離脱するかどうかを判断します。そのため、ユーザーが求めている情報がページ内に含まれていることがファーストビューですぐわかるかが、直帰率、ページ滞在時間、成約率に大きく影響します。どのようなきっかけでサイトに訪れたかによってユーザーが求めている情報は異なりますので、ユーザーの求めているであろう内容を推測して最上部で伝えるようにします。
ユーザーニーズと合致したキャッチコピー、視覚的にページの内容がわかる図表や画像、目次やメニュー、フォームもしくはCTAなどがスクロールせずに見える配置にあるとよいです。
測定すべき指標は直帰率、平均ページ滞在時間、CTAのクリック率、成約率などがあります。ページにフォームを埋め込んでいる場合は成約率、埋め込んでいない場合はCTAのクリック率がKGIとなります。直帰率、平均ページ滞在時間などはKPIです。平均ページ滞在時間やスクロール深度などが低くても、CVRが高いページはあるため、KPIはサイトの種別によって必ずしも設定する必要はありません。
Webサイトの改善活動での注意点
必ずしもA/Bテストにする必要はない
改善施策の効果を正確に測定するには、A/Bテストをしたほうがよいですが、サイトの規模が大きくないうちはABテストのツールや環境を整備するのが投資対効果で割にあわないことがあります。新しい計測方法の準備に時間かけるくらいなら、その分多くの改善施策を試したほうが数字が伸びます。
開発や制作リソースを考慮してスケジュールを立てる
エンジニアやデザイナーが改善活動にかけられる時間は限られているため、マーケティング部門が独自に実行できる施策と、他の職種の方々の協力を得ないと進められない施策に分けて考えることになります。同じ箇所を定期的に改善する前提で、あらかじめ社内の関係者に時間を確保してもらうのがおすすめです。
HTMLやCSS、自社で利用しているCMSのカスタマイズなどの知識があれば、文言変更、画像の差し替え、簡単なレイアウト調整など、エンジニアやデザイナーの手を借りずに実施できます。たとえばヒートマップツールの結果を基にした要素の並び替え、フォントサイズや色の調整、余白の最適化など、視覚的な改善をマーケターだけで対応できるようにしておけば、ちょっとしたテストの回数を増やせて改善のサイクルが早く回ります。
マーケター側で試験的に一部のページだけを先行して改善し、その結果からエンジニアが関わる大規模な改修の必要性と効果を事前に検証する流れにすると、無駄な開発をしてしまうリスクを減らせます。
必ず成果を可視化して振り返る
改善施策を進める際は、検証の徹底が重要です。サイトを変更した後、正しく検証されないまま放置されることは避けなければなりません。数値が良くなかったのか、それとも悪くなったのかを必ず明確にして、データに基づいて次の変更方法を決めます。
また、一度の失敗で諦めて、その部分の改善を止めてしまうことは大きな機会損失です。数値が悪くなったらとりあえず元の状態に戻して、失敗した原因を分析して次の改善に活かして別の改善案を出すのを繰り返していけば必ず改善していけます。
まとめ
Webサイト改善のROIを最大化するには、重点箇所への集中投資が最も効果的です。数多くの改善案に分散投資するのではなく、影響度の高い箇所を選定し、継続的に改善を重ねることで、限られたリソースから最大の成果を引き出すことができます。
サイトの規模や人員に応じて戦略を調整しつつ、データに基づいた検証を怠らず、失敗を恐れない姿勢で取り組むことが、持続的な成長につながります。